Topics 2002年4月11日〜20日    前へ    次へ


19日 鉄鋼メーカーの退職者医療
16日 雇用と犯罪歴
12日 401(k)改革法案
11日 処方薬の割引カード


19日 鉄鋼メーカーの退職者医療 
Source : New Bills Seek to Solve Steel Benefits Issue (Plansponsor)
"鉄鋼族"と訳してよいのかどうかわからないが、"the Congressional Steel Caucus"の親分2人が、鉄鋼業の退職者医療を支援する法案を近く提出するとのことだ。

さすがに、企業年金までは含めないようだが、退職者医療がなくなることだけでも何とかしたいという、姿勢の表れのようだ。もっとも、企業年金は、倒産しさえすれば、PBGCが救済することになっており、鉄鋼産業にとっては、措置済みということか(Topics 3月31日 「鉄鋼業界のための支払保証制度」)。しかし、ここで考えておかなければならないことが2点ある。

第1は、退職者医療保険というのは、企業側の任意の制度である。提供しているところと提供していないところがあり、統計から見れば、提供している企業の方が少ない。



しかも、退職者医療の恩恵に浴しているのは、大企業の退職者、つまり年金もおそらくたくさん提供しているであろう大企業の退職者なのである。



第2は、他の産業でも退職者医療が危機にさらされているところが多数ある。また、産業全体ではなくとも、ある特定の企業の退職者医療が削られようとしている。例えば、自動車産業を見ると、最近、Fordが、退職者医療の保険料について、本人負担を求めることにしたと報道された。これはFord建て直し策の一環だ。ところが、ライバルである、GMやClyslerは、とっくの昔に本人負担を開始している。Fordの退職者を思えば、かわいそうと思えるが、他のライバル社はとっくに負担を求めており、どちらが健全な経営を行ってきたのかは明瞭だ。

これだけの反論材料がそろっていながら、なおかつ鉄鋼産業丸ごと救済を政治課題として挙げなければならないのは、ひとえに選挙対策が理由だろう。とはいえ、いくら鉄鋼産業の退職者が多いといっても60万人であり、その他の産業の退職者の反感を買ってまで法案を作成しなければならない理由はどこにあるのだろうか。それとも、これは"族議員"の宿命なのか。まるで、日本の「抵抗勢力」を見るようで、しのびない。実際、これら法案に対するサポートは充分な数には達しない様だが・・・。

16日 雇用と犯罪歴 Source : Union Sues Northwest Airlines (AP)
Northwestが労働組合から訴えられた。その理由は、米国連邦法で定められている範囲を越えて、従業員の過去の犯罪歴を調べようとしたからだ。これに対して、Northwest側は、September 11以降の当局からの指示に従っているまでだとしている。

私は、航空当局がどのような指示を出しているのか、まったく知らないので、事の真偽を判断することはできないが、September 11以降に、パイロットや従業員に怪しい奴はいないか、と懸念する当局の気持ちはよくわかる。

さて、この犯罪歴やアルコール中毒、麻薬常習については、こと雇用関係において厄介である。

あるマニュアルによれば、採用のための面接時に、アルコール摂取量やアルコールに関係する治療を受けたかどうかは、質問しないようにと注意している。また、麻薬の使用については質問していいが、その量については質問してはいけないとしている。また、犯罪歴についても、有罪判決を受けたことがあるかどうかは質問してよいが、逮捕歴は尋ねてはいけないとしている。さらに、有罪判決を受けたことを理由に採用を拒否することはできないとしている。上記の記事でも、28種類の犯罪を過去10年間に犯した個人は欠格者としてみなされる、との記述があるが、逆に言えば、10年以上前のことであれば、それは不問にしなければならないということだ。

他方、過去の犯罪歴を知っていながら採用し、仕事の関係で従業員が犯罪を犯した場合、被害者は、当人ばかりでなく、その雇い主も訴える可能性がある。雇い主は予め犯罪が発生する可能性があることを知っていながら、当人を雇ったのは問題だ、というわけだ。

だから、企業側としては、採用の際、直接当人に根掘り葉掘り尋ねるわけにはいかないので、当人を知っている人に照会してもよいかどうかを、当人の了承を得た上で、そのようなことはないかどうかを確認するのだが、当人を知っている人達が当人に不利になることはなかなか言ってくれないのが、世の常である。

以前からこのジレンマをどう解消しているのか、大変興味を持っていたのだが、なかなか人事担当者は表立って本当のことは言ってくれない。弁護士やコンサルタントの話を聞くうちにようやくわかってきたのは、そういった採用候補者の信用調査を専門に行う調査会社があるのだそうだ。日本でいえば興信所といったところだ。こういう調査会社は、個人の犯罪歴はもちろん、クレジットの状況まで調べてくるそうだ。

日本では、かつてのように、採用候補者の個人情報を収集することはなくなっていると聞く。最近は、最終学歴も聞かずに採用する企業がもてはやされている。こういう状況は、日本人ならみな同じ、単一民族は単一価値観を持っているとの前提に立って初めて成り立つ採用行動ではないだろうか。人一人の採用には大変なリスクが伴う。それは金銭的にも事業の将来性にも関わるものだ。まして、多様な人種、多様な価値観を持った人達の中から、最もその職場にふさわしい人材を選ぼうとするなら、個人の信用調査にかかるコストなど、安いものなのではないだろうか。

ちなみに、昨年9月、子供達が通っている公立小学校で、学年最初のPTA総会が開催された。その時驚いたのは、校長が先生達を紹介する際、すべての先生について、出身大学を加えて紹介していた。当然ながら、University of Maryland出身者が大半であった。学歴とはそれくらい大切なものなのだと思う。

12日 401(k)改革法案 Source : Post-Enron Pension Bill Passes In House (Washington Post)
401(k)改革法案が、下院で通過した。内容は、ほぼ大統領提案にそったものなので、特にコメントすることはない。注目したいのは、その得票数だ。

今回通過した法案は、共和党提案のものである。当然、民主党案も提案されていたが、まず、その民主党法案が、232対187で否決され、その後、共和党法案が255対163で可決された。

このワシントンポストの記事では、「ほぼ党派ラインに沿った投票結果だった」と述べているが、下院の議席数は、共和党218に対して、民主党は210だ。党派ラインに沿った投票なら、もっと接戦になってもよいはずだ。しかも、民主党議員の投票行動を見ると、民主党法案について義理立てして投票した人が、24人もいたことになる。要するに本音では民主党案に賛成できないという議員もかなりいたということだ。

もっとも下院の民主党案(Miller法案)は、かなり保護色が強く、ちょっと現実的ではなかった。そのせいもかなりあると思われる。

今後、俄然注目が集まるのが、上院の法案である。これについては、過去何回か触れているが、民主党Kennedy法案は、企業側のマッチング拠出を自社株で拠出できる場合を制限している(Topics 3月14日 「DC Plan 改正法案まとめ」)。経済界は、この制限が入らないように、相当のlobbyingをしているはずだ。今回の下院民主党案が大きく破れたことで、上院の採決にどのような影響が及ぶのか。仮に上院のmajorityである民主党案が可決されたとしても、必ず両院協議会に諮ることになり、今回の採決数字は、その協議内容にも影響を及ぼすだろう。

11日 処方薬の割引カード 
Source : Seven Drug Makers To Offer Seniors Single Drug Discount Card (Kaiser)
      Drugmakers Align to Offer Discount Card (Washington Post)

このTopicsでも、過去10日間に2回取り上げてきたが、処方薬をめぐる動きが活発になってきた。大手の製薬メーカー7社が、共同で"Together Rx Card "という割引カードを発行し、Medicare対象者でかつ低所得者にこのカードを配布するという。これにより、数十種類の処方薬が最高20%割引になるということだ。これにより、約1,100万人が恩恵を受けるそうだ。

各社は既にそれぞれ割引カードを発行しており、これを統一して利用者の便利なようにする、というのが、表向きの理由だが、最近の処方薬の高騰に対するバッシング対策であることは明白だ。議会の立法により、様々な規制、特に薬価の直接規制や、patentの有効期間をいじられたりするよりは、よっぽどましで安く済むということなのだろう。

もちろん、このカードの恩恵にあずかったとしても、自己負担がなくなるわけではなく、また所得基準により恩恵にあずかれない高齢者もたくさんいる。また、ファイザーやエリ・リリーなどのメーカーも参加していない。従って、このカードですべての問題が解決するわけではないが、今年前半までに定着すれば、選挙や立法活動に対して一定の効果を果たすことになるだろう。White Houseは、このような製薬メーカー側の自主的な行動を歓迎している。製薬メーカーは、あらゆる対抗手段を駆使して既存の薬市場のメカニズムを保持するつもりらしい。

ところで、最近発表された、Fortune 500 (2002)によれば、製薬産業は、売上高利益率18.5%でダントツ1位総資産利益率16.3%でこれまたダントツ1位一株当たり利益率33.2%で1位と、抜群のパフォーマンスを見せている。これだけよければ、少しぐらいの割引なんて大したコストではないですね。